インド カーニャクマリ4 旅の道徳
この投稿は1999年から2001年までのバックパックを背負って世界を放浪した話を書いてます
すっかりアンソニー達と共にカーニャクマリで生活している風に
なっていた 朝 漁の手伝いをし 昼メシを皆で食べ
アンソニーJr と遊んで夕方 チリ(唐辛子)フリッターの屋台に
寄ってから宿に戻るというサイクルがついた
そんなある日 昼メシを食べているとアンソニーが珍しく
浮かない顔をしていた 雑魚カリーでベトベトになった右手を
ねぶりながら どうしたのか?と聞くと子供の具合が良くないという
そういえば いつも空気の抜けたペコペコのサッカーボールを
ヨチヨチしながらドリブルしているJrの姿は今日はどこにも見当たらない
更に聞くと 奥で寝ている 熱があるらしい 口を開けハアハアして
寝ていた 大変だ 邪魔になるからその日は早めにおいとましようと
”ごちそうさま”と手を合わせ出入り口の扉に手かけた時だった
あぐらをかいたままのアンソニーが困ったような顔をして
”お金の工面をしてくれ” みたいなことを切り出した
奥から奥さんがジッと見つめていた そういえば漁を手伝うよう
になって全然漁が芳しくなかった
あまりにも突然のことで少々戸惑いながらそんなにJrの具合
が悪いのか聞くと(中2の秋の英語力)薬を買いたいのだと言う
100ルピー(約320円)でいいという アンソニーはあぐらを
かいたまま自分達を見上げるも自分はアンソニーと目を合わす事
が出来なかった 決して100ルピーが惜しいわけではなかった
Jrが早く元気になればいいと本当に思う ただ ささくれた指で
ニットに袖を通したときみたいに心にほんのチョットだけ引っかかって
いた 明確な返事を出来ないまま ”後で来る”と言い 家を出る
アンソニーはうつむいていた タカシと暫く無言で宿へとトボトボ
歩いた、、、あと100ルピー足りないのか 100ルピーも無いのか、、
よくバックパッカーから旅先で親切にされた後お金を請求された
とか いつの間にかずうずうしくなって自分のものが無くなっていった
と聞いたことが度々ある まさか渡したお金が薬ではなく酒になったら
、、昔みた時代劇のワンシーンを重ねて思ったりもしてしまった
アンソニーは以前も旅人に同じようなことを言っていたのか、、、、
マッチョの体つきのわりにつぶらな瞳のアンソニーの顔が浮ぶと
そんな奴ではない と否定できるも すぐよからぬ考えが浮んで
しまう タカシはどう思っているのだろう、、、ただ自分とタカシの
共通に考えていたのは 旅人がそんなこと(お金を渡すこと)を
してアンソニー家族やまして周りの家族が今後お金を期待して
旅人に近づいてきたら嫌だ ということだった 旅の道徳って何だ?!
ベッドに横になり天井を見ていた タカシが言った
『俺 届けに行くよ』 ぐらぐらした気持ちを持ち続けていた自分が
なんだか恥ずかしく思える Jrが回復する為に今自分達が出来ること
ただ単純に薬を買ってもらえればいい ということ もう後は考えない
ようにした 夕方とよぶには夜と言うぐらいの時刻 アンソニー宅を
訪れると アンソニーがすぐ出てきた 待っていたのかもしれない
封筒に入れたお金を渡すと素直に喜んでくれた 1つだけ約束を
した ”このことは周りの人に言わないでほしい” という事
漁は明日休むと言い タカシは今までのお礼を言っていた
そう タカシは明日カーニャクマリを出発する
きびすを返すように宿へと戻る アンソニー喜んでいたな、、、、
2人でそう確認し安堵する 途中から舗装され街灯が
点々とある広い道に出ると2人無言になって帰った
翌日はアンソニー宅には行かなかった そしてタカシは出発の
時だった 飄々としていたタカシは旅人との距離感をつかむのが
うまかった 変にいつも一緒にいるわけでもなくお互いの時間を
それとなく作り又自分の時間をしっかりとっていた 付き合い易い奴
だった 苦楽を共にした旅仲間はたった数日でも旧友のように思う
お互いのこれからの旅の無事を思い 宿の前で見送る
あれだけ大きかったバックパックがユラユラ小さくなっていき
角を曲がって消えた 1人部屋に代え 部屋に戻ると急に
薄暗く感じる 又1人旅が始まる 寝転んでいても寝ることが
出来ないのでチリフリッターの屋台が出るまで 久しぶりに
繁華街をブラブラしたり寺院をウロウロしたりしていた
喧騒に1人でもうまく馴染む
相変わらずチリフリッターは美味い アラビア海に沈む夕陽を
見てそろそろ自分も出発のときだと思っていた
翌日昼過ぎにアンソニー宅に行くと路地でJrがヨチヨチボールを
追いかけていた アンソニーはお茶を出すように奥にいる奥さんに
騒いでいた いつもの光景だった 漁のことを聞くと 相変わらず
らしい 芳しくないようだ 『漁は神のみぞ知る』と天を指して答えた
(そう翻訳した) 奥から奥さんがお茶をシズシズ運んでくる
何も言わなかったが置いたお茶の近くに薬の袋が転がっていた
ほんの一瞬の出来事、、、、のはずがあの薬袋と家の出入り口
から見えるJrのヨチヨチ姿が今でも鮮明に思い出す
旅のオマメ
チリのフリッター……..すこし辛いぐらい 200スコビル(推定)1個50パイサ(0.5ルピー)